イラストコラム

絵師の立場から、AIイラストとの向き合い方を考えてみた

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AIイラストの現状をサクッとまとめる

※分かりやすくするため、ざっくりまとめです。語弊ありなので、詳しくは各々調べてね!

イラスト関係の権利

  • 人の作品を勝手に見せちゃダメ(公衆送信権、展示権など)
  • 人の作品を勝手に変えちゃダメ(同一性保持権など)
  • 人の作品を勝手に使っちゃダメ(複製権、頒布権、翻訳権など)
  • 人の名前を勝手に使っちゃダメ(詐欺罪、営業妨害罪など)
  • 人のキャラを勝手に使っちゃダメ(商標権、意匠権など)
  • 人の絵柄を勝手に使っちゃダメ(不正競争防止法など)

法律の穴

  • 著作権では、わざとじゃなかったら、許される(依拠性)
  • 商標権、意匠権は審査を通過しないと使えない(特許審査)
  • 不正競争防止法は、人気絵師にならないと使えない(周知性、著名性)

法律の穴をついてやれる事

  • 絵柄再現AIでイラストを大量に公開し、その絵柄を飽きさせる(商品寿命の短期化)
  • AIでイラストを安売りする人が増えて、自分のイラストも安くないと売れなくなる(相場破壊)
  • 絵師が新しい表現を生み出しても、AIで、すぐに誰でも描けるようにされてしまう(先行者利益の損失)
  • 絵柄再現AIで、エロ絵を描く(ブランドイメージの毀損)

「法律の穴をついてやれる事」は、黒寄りのグレーと言われていることもあり、人によって見解が分かられるようです。仮に法律的にOKでも、絵師としては辞めて欲しい事がいっぱいありますよね。

辞めて欲しい時、誰と協力すれば良いのか?

例えば、AIイラストを法律で全面禁止にするのは、難しいですよね。なぜなら国に禁止する動機がないからです。辞めて欲しい事があった時に、協力してもらおうとすれば、相手がどんな動機で動いているのかを知る必要があります。そこで、AIイラストを取り巻く、登場人物たちを整理してみます。

国は国力アップが動機です。ディープフェイク(本物そっくりの偽物)や、セクストーション(猥褻画像を用いた脅迫)は、治安悪化につながるので、AIを制限する動機ができます。しかし、コンテンツ産業においては逆です。漫画・アニメ・ゲームなどは、海外でとても売れているので、国はもっと売れて欲しいと思っています。(※参考)なので、絵師を過保護にして、中華ゲーム、韓流ドラマ、アメコミ、ハリウッド映画などに負けたくはありません。競争を無くすには、各国一斉にAI禁止にする必要があるので、どこかの国がAIを利用している限り、自国もAIを利用していなければ、必然的に負けてしまいます。コンテンツ産業で儲けて、絵師の失業は社会保障でカバーする方向に動きやすいでしょう。ということで、国際競争にさらされている国は、絵師の見方をしたくても、しにくい事情があります。

ゲーム会社や広告会社などの制作会社も、コスト削減を強い動機として持っているので、絵師の見方はしにくいです。

見たり買ったりする消費者も、なるべく安く抑えたいので、AI作品を見ない・買わないようにする動機がありません。絵師の事をかわいそうだなと思っていても、内容が同じなら安い方を買ってしまうでしょう。

販売サイトは、場合によっては味方にしやすいです。AIによって、似たり寄ったりで、質の悪いものが増えること(粗製濫造)によって、サービスの運営コストが上がってしまうので、AIを禁止する動機ができるからです。実際に、AI禁止が進んでいます。しかし、審査システム、検索システム、レコメンドシステムが進化すれば、AI作品を禁止する動機は薄くなっていくでしょう。

絵師が利用するツールを開発している会社や、絵師が所属している団体は、絵師のために動くことで、利益を得ているので、この中では、一番絵師の味方になってもらいやすいです。著作権ビジネスの市場が大きくなることを目的としている団体は、権利保護が生命線になります。ツール開発会社としては、絵師が金持ちな方が、自分達のサービスにも、たくさんお金を使ってくれるようになるので、嬉しいです。そのため、絵描きの収入を増やしたいし、絵描き人口も増やしたいです。実際に、関連の団体、協会、委員会といった人たちが、国に働きかけています。(※参考

当事者や関係者ではない世論は、AIイラストに関する問題と利害関係がないので、敵にも味方にもなり得ます。

ということで、絵師の味方になってもらいやすいのは、著作権ビジネスをしている周辺の人たちと、世論の2つです。

世論と協力してできることって何?

著作ビジネスをしている人たちには強い動機があるので、自分達にできることは協力しつつ、動向を見守るとして、世論について考えてみます。

例えば、「AI作品を買う人は、本物を知らないニワカだ」という風潮ができたとします。そうすると、AI作品の価値が下がり、手書きの作品の価値が上がることになります。実際に現在、AIに関することには、SNSによる炎上や私刑に溢れています。しかし、世論は移ろいやすいので、この状況は一時的かもしれません。

また、国・制作会社・消費者が持つ「コスト削減」という動機はとても強いです。そのため、世論を味方につけたとしても、仮に作品販売の市場でAIより人間の方が優位に立ったとしても、企業案件市場ではAIの方が優位に立つでしょう。

なので、企業案件での収入が仮にゼロになっても、作品販売の収入で成り立つことを最終目標に、世論を作っていく事が、現実的にできる事でしょう。

だだし、現在のSNSの様相のように、AIのネガキャン(「AIイラストは魂がない」「AI絵師は機械を操作しているだけなので、なんで描いているって言い張れるんだ?」「著作権が怪しいAIを使っている人の神経が知れない」などなど)をするみたいな、「自分を上げるために、相手を下げる」行為は、絵師の評判を落とすので、得策ではないでしょう。実際に、反AI活動が過激化して、絵師界隈に嫌悪感を抱くようになってしまった人も出てきています。絵師の素行が悪いと、世間が敵になり、せっかく味方になってくれている団体・協会・委員会の人たちの活動に逆風となってしまうかも知れません。

絵師が描くイラストの良さ、価値の高さが、どうやったら多くの人に、より良い形で広まるのかを、今一度考えるべき時期なのかも知れません。

AIによって企業案件ってゼロになるの?

もちろん完全にゼロになることは考えにくいです。しかし、デザインや演出(ディレクション)などの上流工程だけが残り、下流工程である、線を引いたり色をつけたりする(オペレーション)仕事は無くなるかも知れません。

絵を描く人たちって減るの?

仮に企業が絵師よりAIの方にお金を使うようになれば、絵師の稼ぎ口が1つ無くなってしまうことになります。そうすると、「稼げないなら描かない層」の人たちが真っ先にいなくなるでしょう。

資本主義の世の中では、技術が高い人がいたとしても、稼ぎが少なければ、人気になったり、憧れられたりすることが少ないです。そうすると、新しく絵師を目指す人も減っていって尻すぼみしていくことになります。

しかし、世は大SNS時代。仮に大金を稼いでいなくても、フォロワーが多い人は、人気を集めます。とは言うものの、今よりは目立ちにくくなっていくでしょう。最近、Vtuber界隈では、ファンが、ファンアートだけでなく、ファンゲームを作って、推しにプレイしてもらう、という文化が出てきました。絵を描こうじゃなくて、コンテンツや体験を作ろうとする人の方が増えていくかも知れません。

じゃあAIを使うしかない?

AIを使ってアイディアの方で勝負していくのも良し、AIを使わないことでプレミアム感を演出していくブランディングも良し。それは、自分と相談して決めていく必要があります。大金を稼ぎたいのか、自分の美学を貫きたいのか、といったような価値観で答えは変わっていくと思います。

ただ、1つ言えるのは、今描いている1人1人が、描くことを嫌いにならず、好きでい続ければ、新しく絵を始めてみたいと思う人が出てくると思います。

この機会に、仮にAIが完璧に自分の好みぴったりの絵を描けるようになったとしても、自分で描きたいか?それは何故か?を考えてみてはいかがでしょうか?それが、あなたの描くことが好きな理由かも知れません。

  • この記事を書いた人

森武絵辰

福岡生まれ福岡育ち。布団と小説が、三度の飯より好き。

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