イラストコラム

画力を上げるには何が必要か?

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キャラクターイラストに必要な画力について考えていこうと思う。「画力」=「デッサン力」と安直に結びつけがちだが、「ゆるキャラ」や「ダサかわ」というものがあるように、絵によってはデッサン力が重視されない場合がある。画力がなかなか上がらない、といった場合、絵のスタイルと練習している内容がミスマッチしていることが往々にしてある。そこで、どんな絵を描くと、どんな画力が必要になるのかを考えていきたい。

私は、キャラクターイラストのスタイルは7種類あると考える。以下の図は、7種のスタイルと、各スタイルで重視すべきスキルの対応表である。

1. ポートレートイラスト

人物を主体にしたイラスト。
宣材写真などを用途として、被写体が撮られることを意識している

ポートレートでは一定のデッサン力が求められるだろう。なぜなら、キャラクター自体が主体なので、人体の崩れが悪目立ちしやすいからだ。だが「立体的に正しいかどうか」は絵の説得力を上げることには繋がるが、正しければ美しいとは限らない。立体的に正しく描く前に、絵を見た人が、顔が好きになれるか、体型が好きになれるかの方が重要だろう。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、美しいキャラクターデザイン、体型プロポーションは何かを突き詰め、それらを引き立たせるポージングや、ファッションデザインなどを研究していけば、絵の魅力が増していくだろう。

2. スナップイラスト

人物を主体にしたイラスト。
日常の一コマを切り抜く形で、被写体が撮られることを意識していない

ある程度のデッサン力を求められるスタイルだが、スナップの場合は、違和感がない程度に描ければ、そこまで精密さは重視されないと思われる。なぜなら、スナップは、日々の生活や出来事を、どんな表情やどんな仕草で送っているかを描くことで、キャラクターの内面を伝えるスタイルだからだ。なので、絵のテーマが「絵を見た人のキャラクターの解釈をどこまで代弁できているか」が肝になってくるので、感受性や共感力も重要になってくる。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、物の持ち方、服の着こなし方、立つ時の重心の置き方など、細かなニュアンスを拾っていく力を鍛えていくと、絵の深みが増していくだろう。

3. シチュエーションイラスト

状況を主題として、「場所」「時間帯」「前後の出来事」を伝えるためのイラスト。

シチュエーションイラストは、スナップイラストと、ほぼ同じ要領だろう。スナップの場合は、一人のキャラクターに対して深堀りしていく。しかし、シチュエーションイラストの場合は、キャラクターと友人、キャラクターと親、キャラクターと家、キャラクターと街、キャラクターと環境、など「状況」の方に焦点が当たる。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、スナップの時よりキャラクターを取り巻く環境や状況など、広い範囲への想像力を鍛える必要があるだろう。人物以外など描けるものが増えるほど、表現できるテーマが増えていくだろう。

4. ファッションデザインイラスト

服装、髪型、アクセサリー、小物などをメインモチーフにしたイラスト。

言わずもがな、立体を正しく描くデッサン力より、デザイン力の方が重要だ。造形の美しさ、色の美しさを出しながら、コンセプトをビジュアルに落とし込むアイディア力を鍛えていく必要がある。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、キャラクターイラスト以外のアートにたくさん触れると、アイディアの幅が広がり、引き出しが増えていくだろう。

5. グラフィックデザインイラスト

キャラクターをデザインのいち要素として扱ったイラスト。
「髪を稲妻に」「尾ヒレを飲み物に」など、形状の比喩表現を用いたりする。

グラフィックデザインイラストは、ファッションデザインイラストと同じような要領だ。ファッションデザインイラストの場合は、ファッションデザインが秀逸であれば、キャラクターがポーズを取って立っているところを描くだけで絵になる。しかし、グラフィックデザインイラストは、キャンバス全体のデザイン力の必要性も増すだろう。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、この形をこの色にしてみたら面白い、この形とこの形を組み合わせると面白い、など造形に対する遊び心を豊かにしていくことで、見た人を刮目させることができるだろう。

6. 抽象イラスト

特定のメッセージを伝えるためのイラスト。
「影で本心を表現する」など、感情や概念の比喩表現を用いたりする。

このスタイルは難易度が高い。抽象度の高い概念は、ビジュアルを持たないからだ。例えば、「ボール」は球体というビジュアルを持っている。しかし、「寂しい」「意地」などはビジュアルを持たない。気分が変化することを「気分が軽くなる」「気分が重くなる」というが、「気分」自体を体重計に乗せて体重が測れる訳ではない。「気分が上向きになる」「気分が落ち込む」など、「気分」をボールに見立てて、上に飛んで行ったり、床に落ちて穴にはまり込んだり、といった物理現象に例えて、気分の状態を言葉にしているのだ。このように言葉で行なっている比喩表現を、言葉の代わりにビジュアルで行うのがこのスタイルだ。「かっこいい色」が人によって何色を指すのかが変わるように、抽象度が高いものを、伝わる形でビジュアルにするのは難しい。

また、抽象度が高すぎると、テーマ自体が小難しくなってしまうこともある。例えば「スクールカーストにおけるカースト間の隔たり」をテーマにすると社会派すぎてカジュアルにイラストを楽しめなかったりする。それよりかは「メガネ陰キャとギャルの素直になれない恋」などの方が、よっぽど多くの人の興味を惹くだろう。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、自分の感性と、受け取り側の感性の接点を見極める力を鍛える必要があるだろう。

7. ネタイラスト

大喜利のように、人を楽しませるためのエンターテイメント。
セリフや説明文を入れたり、ツイート本文でボケを入れたりする。

TwitterなどのSNSに一番相性が良いイラストは何かと聞かれれば、このスタイルだろう。このスタイルは絵の技巧の上手さ下手さは関係ない。アイディア勝負だ。周りをよく見て、皆が何を思っているか、何を感じているか、何を言いたいか、を察する力が求められる。

どんな分野に注力すべきか

このスタイルでは、たくさんの人とコミュニケーションを取り、アンテナを高く、敏感にしていくことが必要だろう。

スタイルを活かす絵柄

「スタイル」と「絵柄」には相性があると思う。ここでは、デザイン、質感、色のトーンによって出来上がる印象のことを絵柄とする。

デザイン

絵をキャラクターイラストにする際に、どこまでデフォルメするか、ディティールを残すか、デフォルメする場合はどのようにデフォルメするか、といったことを、ここではデザインとする。

質感

ここでは透明感や重厚感など、絵をデフォルメする時に、どの物性を取り入れるか、と言うことを質感とする。

色のトーン

濃い色や薄い色など、どの色味を使うかが、色のトーン。

スタイルを殺す絵柄とは

以上のようなものを組み合わせて出来上がる全体の印象を、ここでは絵柄とする。

そうした場合に、イラストのスタイルを殺す絵柄というものが出てくる。

例えば、ポートレートで、シンプルなポーズとファッションで描く場合、凹凸を省略するアニメ塗りを選ぶと、絵が単調になってしまう場合がある。

ネタイラストを描く場合に、細かい凹凸まで拾う重厚感のある塗りをしていては、絵が出来上がるまで時間がかかり過ぎて、ネタの旬が過ぎてしまうこともある。

自分のスタイルが分かれば、何をがんばるべきかが見えてくる

スタイルが分かれば、必要なスキルと、向いている絵柄が見えてくる。自分の今までの絵を振り返って、今後、何に注力していくべきかを考えていく時に、参考になれば嬉しい。

  • この記事を書いた人

森武絵辰

福岡生まれ福岡育ち。布団と小説が、三度の飯より好き。

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