イラストコラム

たくさん描けば絵は上手くなる?

投稿日:

よく「絵はむやみやたらと枚数を描いても上手くならない」と言う。しかし、たくさん描かないと得られないものは、確かにある。そこで、知識だけで得られる領域と、訓練が必要になる領域について考えていこうと思う。

訓練で得られるのは応用力と容量

結論から言うと、訓練で得られるのは応用力と容量である。応用力とは、テクニックを実際に利用して作品が作れるかどうか、と言うことだ。容量は、バランスをキープできる複雑さの限度のことだ。実際に具体例を交えて説明しく。

応用力

絵を描くテクニックの1つとして「構図」がある。例えば、集中線構図、消失点構図といったものがある。

画面中央に向かう矢印を置くことで、視線を画面中央に引き寄せるのが「集中線構図」。円柱があったとして、手前と奥で遠近感を出すのが「消失点構図」だ。集中線構図は、漫画の「集中線効果」が分かりやすいだろう。

集中線構図で絵を描くとする。一番単純なのは、漫画の「集中線効果」をそのまま描くことだ。

以下の例は、集中線構図と、消失点構図を組み合わせた場合。人物が「頭が手前+足が奥」になるような消失点構図になっていることに加え、集中線を描いている。

「見せたい所へ線を引く」はとても簡単だ。しかし、効果線のように記号的表現を避けたい場合はどうすれば良いだろう?そう言う時は、集中線に代わるものを用いる必要がある。効果線の代わりに描く方法として以下の3つのアプローチがある。

  1. エフェクト的アプローチ
  2. レイアウト的アプローチ
  3. グラフィックデザイン的アプローチ

エフェクト的アプローチ

エフェクト的アプローチとは、風、光、電気などのエフェクトを、効果線の代わりに用いる方法だ。

レイアウト的アプローチ

レイアウト的アプローチとは、モチーフを置くときに、効果線に見えるように配置する方法だ。

以下の例では、マイクのアームが手前から奥へ向かって配置されている。

以下の例では、車の窓枠が、手前から、中央奥に向かうように配置されている。

グラフィックデザイン的アプローチ

グラフィックデザイン的アプローチとは、髪やスカートなど、物の形を効果線に見えるように変形する方法だ。

このように、マイクアームなど細長い形をしたものや、長い髪や風など変形するものは、効果線の代わりに使うことができる。さて、では効果線の代わりにできるものを、すぐに思いつくことができるだろうか?

経験値が少ない時にありがちな、安直な方法に「花を背負わせる」がある。

確かに、画面中央に視線が行くように花を配置している。しかし絵の主題に対して、「花である必然性」がない。成功・失敗経験が少ないと、上記のように絵のテーマに合っていない方法を選んでしまうのだ。

集中線を直に描くことは簡単だ。エフェクトを描くことも、まだ簡単だろう。しかし、レイアウトやグラフィックデザインで、集中線を作るとなると、難しくなる。マイクアームのように明確に細長い物や、長い髪やスカートのように変形する物がない場合は、さらに難しくなる。

仮に絵を勉強して、「集中線構図」の存在を知ったとしよう。しかし、どうやって集中線構図を作るかは、一定の失敗と成功を経験しないと、良い方法を考えつかない。この応用力が、知識だけで得られる領域と、訓練が必要になる領域の境界の1つだ。

容量

容量とは、一度に処理できる情報量という意味だ。例えば、以下のような場合だと扱う情報量が違う。

  • (人物1人)+(顔だけ)+(背景なし)の絵を描く時
  • (複数人)+(全身あり)+(背景あり)の絵を描く時
  • 無地のTシャツとズボン
  • 細かな装飾品をたくさん身につけ、レース生地の服
  • (上下左右)しか空間がない
  • (上下左右)+(手前と奥)の空間がある
  • 凹凸が少ないシンプルな造形
  • 複雑な凹凸がある造形

扱う情報が多い場合、例えば「顔も、髪も、建物も、全て描きこんで、結局どこを一番見れば良いかわからない」といったように、強弱バランスが狂いやすくなる。

↓強弱バランスが取れている場合

↓強弱バランスが崩れた場合

一度に扱える情報量は知識では増えない。訓練によって増えていく。この一度に扱える容量上限の差が、知識だけで得られる領域と、訓練が必要になる領域の境界の1つだ。

勉強も大事だが、たくさん描くのも大事

知識で解決することはたくさんある。知っているか、知らないかで歴然の差を生むことは、確かにある。しかし、より高みを目指す時に、応用力と容量が必要になってくる。この2つは、訓練で伸ばすしかない。なので、たくさん描くことも必要になる、という訳である。

  • この記事を書いた人

森武絵辰

福岡生まれ福岡育ち。布団と小説が、三度の飯より好き。

-イラストコラム

Copyright© 絵師のためのネタ帳 , 2024 All Rights Reserved.